102ロケット砲  異様な砲身の束 地面を埋める砲弾幕

 四月三十一日午後三時半ころ。陣地配備についた栗山兵長らの十二人の頭上に、ギラギラと太陽が輝いていた。迫撃砲弾がしきりに落下する。空中からの偵察で丘の上のこの陣地は目標にされているようだ。

 栗山兵長が阿部正雄伍長(紋別市渚滑町出身)の双眼鏡を借りて見ると、小波津部落の民家のくずれ落ちた石垣が見える。山三四七五部隊が戦闘中だが、米軍は、小波津の北側の線まで迫っているのが見える。

 米軍陣地では、ジープで火砲らしいものを引っぱっていた。たくさんの砲口が、こちらに向けられているが、初めて見る栗山兵長には、それがなんという火砲なのかわからない。

〈ハーモニカを積み重ねたようなかっこうをしている。大きいもんだなあ―なんという大砲だろう?〉

 しきりに観察していた。とたんに異様な火砲の砲口が火を吹いた。栗山兵長は、ごうにころげ込んだ。

 ズシン・ズシン・ズシン・・・いっせいにもの凄い爆発が、いままで兵長のいた地点一面にひびく。阿部分隊長に報告するまでもなかった。全員が、タコツボ―といっても腰ぐらいまでしかない丸い穴―に頭からもぐり込んだ。

〈石田兵長のいっていた迫撃砲というやつはこれか・・・〉(しかしこれは迫撃砲ではなく、連装のロケット砲であることを栗山兵長が知ったのは、もうすこし戦場慣れしてからであった。

 甘利中隊長に情況を報告した中隊長は、三人の監視兵を残しほかの兵は、洞穴にはいるよう命ぜられた。栗山兵長は、中隊長命令を分隊長に告げた。敵砲弾が、ひっきりなしに落下する。三百メートルくらい上空で観測している〝赤トンボ〟がにくらしい。グラマン、コルセアーが、わがもの顔に飛び回る。

 地上の陣地には、阿部分隊長大山正幸上等兵(浦幌町出身)米倉一等兵(女満別町出身)が残った。栗山兵長は、小隊のごうの入り口に立ち、引きあげてくる分隊員を数えていた。

 渡辺上等兵が未着だ。十分、十五分・・・待ったがこない。

〈戦死か・・・〉

 不吉な予感が脳裏をかすめる。じっとしていられなかった。兵長は、ふたたび、砲弾の雨のなかに飛び出し、えん兵ごう(みぞのように掘ったごう)づたいに渡辺上等兵をさがした。

〈いない・・・もしかしたら?〉

 ついに、さっきまでいた場所にきた。

「渡辺・・・」

 大声で呼んだ。上等兵が、岩のかげから顔を出した。

「どうした、ナベ?」

 渡辺上等兵は、ドングリ目玉で小波津の右側を指差し

「見ろ、栗山」

 という。兵長が眼鏡で見るとM4戦車三台、米兵約五十人が迫ってくる。二人は、無言で顔を合わせた。

「とにかく、ごうにはいろう。命令が出るまでは大事なからだだ。こんなところで、やられてたまるか、ナベ、さきに行くぞ」

 兵長が十メートルほど駈け出した時りゅう散弾と迫撃砲弾が集中した。頭を大地にたたきつけるようにして伏せた。渡辺上等兵の姿が見えない。はって引き返してみると、渡辺上等兵は、迫撃砲弾で胸部をやられて死んでいた。

 グーッと胸に、あついものがこみあげる。

〈入隊当時から大の仲よしだったのに・・・〉

 抱きあげてみたが、胸部はひどい傷で、即死だった。

〈生れるときは別々でも、死ぬときは一緒だ。といっていたのに・・・〉

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