227ムシのしらせ 土砂、坑木の下敷き 予感、ぴったり当たる

 石峰に到着した佐藤上等兵は中村軍曹、美馬上等兵と小隊員のはいるゴウをさがした。

 すぐ、がんじようなゴウをみつけた。三人はなかへはいった。ひろびろとしていて奥も深い。だが、地面に水がたまっていて腰をおろせない。―小隊長はいいゴウだという。ここに決めるというのだが、佐藤上等兵はなぜかムシがすかなかった。「ほかをさがしてみて、どうしてもなければ、ここにしましよう。これでは休めません」

 上等兵は、ふたりをさそって外へでた。となりにゴウがあった。山の斜面を利用してつくられ、日当たりがよく、地面にはかわいたワラがしいてある。だが、奥行き三メートル、幅一メートル。

「せまいし、それに丸太に土をのせただけじやないか。まえのゴウのほうがいいぞ」

 軍曹と美馬は反対した。しかし、いままでの経験上、深いゴウが必ずしも安全ではなかった。すこしでも、からだを休められるゴウのほうがいいことを上等兵は力説し、このゴウに決めた。

 朝から天気がよく、敵観測機が飛びはじめた。首里と石峰部落のあいだを旋回している。

 どこの部隊か、五、六人の兵隊が走ってきたが、彼らは、水のたまったゴウをみつけると大喜びで飛びこんだ。

 敵の砲撃がはじまった。上空にはめずらしく双胴(胴体が二つ)のロッキード航空機が飛んできて、爆撃し機銃掃射をあびせる。砲撃が激しくなった。佐藤上等兵らがいるゴウの遠い前方に、首里の山が見え、松があおあおしている。そこからゴウにつづくくぼ地で、さかんに砲弾がサク裂する。遠く首里の山の斜面で、通信兵が砲弾をあびながら決死的な補線作業をしているのが見えた。

 佐藤上等兵は、ワラのうえに横になっているうちに居眠りをはじめた。美馬上等兵は、この時、用便をたしに、ゴウの外へでたという。

 突然、爆発音。土砂と坑木が降りかかる。からだが自由にならない。地の底から、かすかに〝助けてくれ・・・〟と叫ぶ声―

〈となりのゴウだ。むこうもやられたな?・・・〉天井を見上げた。思いがけなくも、坑木のあいだから青空がのぞいている。生命の輝きのような明るさ―

〈助かる!〉

 上等兵は叫んだ。そとから答えがあった。

「中村軍曹殿ッ!佐藤ッ!・・・佐藤ッ!、だいじようぶかッ?」

「無事だッ!美馬、はやく掘りだしてくれッ」

「いま、上空に敵機がいる。ちよっと待て・・・」

 十五、六分の時間―それがまるで、一時間も待たされるようだった。

 佐藤上等兵、中村軍曹は、美馬上等兵に掘りだされた。みると、ゴウのすぐ前に大きな穴ができている。爆弾のあとだ。あやうく爆死をまぬがれたのだ。となりのゴウの六人は、工兵隊の兵隊で、入り口にいたひとりのほかは、五人とも生き埋めになってしまった。

 その夜、工藤中隊は、首里街道に面した斜面に陣地を構築、守備についた。破壊された友軍の軽戦車も、戦車砲だけ地上にだして埋め、くぼ地を進んでくる敵にそなえた。中隊指揮班は山腹のかんじようなゴウにはいり、佐藤上等兵らは、山の裏側の小高いところに配置された。戦車隊の掘った小さな穴がたくさんあり、首里街道が一目で見渡せる場所だった。

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