010山兵団出動 行動は夜間だけ 空と海の激闘を望見

 西海岸の小禄一帯守備の歩兵第二十二連隊(山三四七四部隊)は、石兵団の指揮下にはいり九日「首里北方へ出撃せよ」との命令を受けた。

 十日午後八時―照明弾で、あたりは昼のように明るい。石橋の砲弾のあとまで見える。緊張した将兵の顔に目が光っている。部隊は吉田勝部隊長以下、豊見城(とみぐすく)字豊見城の高安橋たもとに集結していた。すでに笹谷一等兵(本道出身)は、瀬長島から引き揚げてくる途中(午後六時)海軍敷設の地雷を踏んで戦死していた。二昼夜にわたる雨で、道はどろどろ、上空をヒュル、ヒュル、ヒュル…と気味の悪い音をたて砲弾が飛ぶ。たえまないサク裂音が、遠雷のように響く。前進中の部隊に、一発の被弾もないのが不思議だ。

 はるか首里、那覇北方の稜線上の夜空が赤い。ときおり、その赤い色が、パッと強くなる。砲弾がサク裂したか、建て物が焼け落ちるのだろう。遠くで、曳(えい)光弾が、赤い直線をひいて飛んでいる。空気を切る砲弾の音、遠雷のようなサク裂音、豆をいるような機銃音。―直線距離で、七、八キロ。あの赤い空の下では、いま死闘が展開されている。数時間後には、そこへ突入するのだ。

 ―だが、だれも、さしせまった緊迫感は感じていないようだった。たばこをのむことも、ささやくことも禁じられた小休止。落ち着きはらって休み、ふたたび、隊列を整えて前進。国場川岸の真玉橋(またんばし)部落にはいった。長嶺国民学校前から那覇の海上がよく見える。砲撃のたびに、赤く火が散り、パッと軍艦がシルエットのように浮かびあがる。絶え間のない砲撃でたくさんの軍艦が、やみのなかに現われたり消えたり、無気味な美しさだ。

 海上から光線の棒が、一斉に空へ、数えきれぬほどあがる。その無数の光の先が、空中の一点に集まった。米軍艦の探照灯の光の円のなかに、航空機が一機とらえられている。航空機はグングン高度を落とす。火の川が下から上へ、急流となって夜空を、しきりに流れる。すごい集中砲火だ。航空機は水平線近くまでさがった。サッと、光の棒が八方にちる。サーチライトでは、追えなくなったのだ。砲火も消えた。そのとき、火柱が大きく高く上がり、一隻の軍艦を照らし出した。化石のようだった兵隊が、はじめて動いた。

「やったッ、万歳!」数秒にして、火柱も、船体が燃える火も、すうっと消えていった。

 部隊は、南風原(はえばる)村を通過、与那原(よなばる)街道を横切り、近道をとって西原(さいばる)村前線の運玉森(うんたまもり)の集結地へ急いだ。

 近づくにつれ照明弾ばかりでなく、曳光榴散弾(えいこうりゅうさんだん)が、しきりに頭上でサク裂し、前進中の部隊をはっきり照らしだす。身も心もひきしまり、戦場の感じがひしひしと迫ってくる。

 部隊本部と第三中隊(軍旗護衛中隊・川島七男中尉・札幌出身)と第三大隊は首里へ向かい、第一と、第二大隊は、夜明け方(十一日)運玉森に着いた。めくらめっぽうにうちこむ艦砲、迫撃砲で、昼間は全然行動できないゴウのなかで、急造爆雷に信管をつけたり、兵器を点検したりして、夜の訪れを待った。

◇歩兵第二十二連隊編成表(昭和二十年四月一日現在、ゴシックは本道出身)▽連隊長吉田勝中佐、甲副官白石大尉、乙副官本田少尉▽第一大隊長鶴谷少佐、副官松田准尉▽第一中隊長鈴木中尉、切り込み隊長高須賀准尉、第三小隊長森曹長、指揮班長久保曹長▽第二中隊長宮﨑中尉、第三小隊長近藤准尉、指揮班長三好曹長▽第三中隊長川島七男中尉(札幌出身)、第一小隊長栗林少尉、第三小隊長今井准尉、指揮班長末広曹長、防衛隊長高橋曹長▽第一機関銃中隊長小関裕二中尉、第一小隊長八幡少尉、指揮班長白尾曹長▽第一大隊砲小隊長加藤少尉▽第一迫撃砲小隊長豊島見習士官、指揮班長菅曹長▽第二大隊長平野少佐、副官川口准尉▽第五中隊長佐野壮一中尉、第二小隊長山之内少尉、第三小隊長林准尉▽第六中隊長大浦真治中尉、第三小隊長鈴鹿准尉、指揮班長西山曹長▽第七中隊長黒田中尉、第三小隊長青木准尉、指揮班長矢野曹長▽第二機関銃中隊長佐藤長太郎中尉、第三小隊長中原准尉、准指揮班長菊池曹長▽第二迫撃砲小隊長山本少尉

▽第三大隊長田川大尉、副官高木准尉▽第九中隊長田窪中尉、第二小隊長玉尾准尉、第三小隊長井上准尉、指揮班長千葉曹長▽第十中隊長渡辺大尉、第二小隊長門田少尉、指揮班長石丸曹長▽第十一中隊長木口中尉、第三小隊長越智准尉、指揮班長佐伯曹長▽第三機関銃中隊長小斯波中尉、第三小隊長佐伯准尉、指揮班長中田准尉▽第三大隊砲小隊長中沢少尉▽第三迫撃砲小隊長、不明。

▽連隊砲中隊長田中中尉、第三小隊長菊地准尉、弾薬小隊長吉良准尉、指揮班長渡辺准尉▽速射砲中隊長佐藤中尉、第三小隊長山本准尉、指揮班長大谷准尉▽通信中隊長山本功樹中尉、器材小隊長久保准尉、指揮班長合田曹長。

沖縄戦・きょうの暦

4月10日

 山兵団は、首里北方の右翼第一線担任の命をうけ、糸満地区から北へ移動開始(二十三日ごろ終了)

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