111敵弾の洗礼 黒土の中に三遺体 機銃掃射に手も出ず

〈久米分隊長は、どこかへ移動したな?〉

分隊長の姿が見えないので、満山兵長は、そう思った。どこへ移動したのか、戦友たちのあいだを聞いて歩いた。みんな、知らないという。不安感がたかまってきた。

〈ひよっとしたら・・・〉

 兵長は、頭から血がひいてゆくような気がした。エンピを持って集合―をかけみんなで分隊長のいた穴のあたりを掘りはじめた。だれ一人ものもいわない。ひたむきに堀りつづけた。かなり掘り進んだとき、上から土がずり落ちてきた。むだぼねおりになってしまった。至近距離で迫撃砲弾が五、六発サク裂した。敵に発見されたらしい。三年兵の戸田幸雄上等兵(札幌・大隊本部伝令として活躍中、五月四日迫撃砲弾で戦死)の命令で、発掘を一時中止して避難した。

 日没を待って、ふたたび掘りはじめた。激しい砲撃でゆるんだ土が、はねてもはねても、上からくずれ落ちる。泣きたいような気持ちで約一時間。あたりはすっかりくらくなり、照明弾を明りとして掘りつづけた。分隊長のいた位置が近くなる。エンピをすて、手で土をかき出す。

「オ、オ・・・・」村上友吉上等兵(芽室出身・五月四日両足貫通銃創、六月十五日以降戦死と推定)の異様な叫び。満山兵長は、村上上等兵の手もとを掘った。ザラッとした手ざわり。黒土のなかから人間の頭が出た。だれかわからない。うつぶせになっている。兵長は、もう一度、手をふれた。

〈冷めたい。死んでいるな? 分隊長のようだが・・・〉

 兵長のカンがあたり、久米分隊長の遺体。つづいて島田上等兵、富塚観測班長。なきがら三体は、小沢の一箇所に収容した。かけつけた近江中隊長は

「そうか、久米は死んだか・・・」

 つぶやいたまま、敵のほうをむいて立ちつくしていた。

 照明弾が、三つの遺体を青白く照らす、軍医が死亡診断書をかいていた。部下思いの分隊長と、ひようきんな島田上等兵、温厚な富塚伍長。死んだことが夢のようだ。

 近江中隊長は戸田上等兵に、あとのことを指示し、軍医と本部へ帰って行った。遺体は上等兵の指揮で穴を掘り、うめた。中隊長は、本部からだれか指揮者をよこす―といっていたそうだが、これからだれをたよりにしたらいいのか―満山兵長は心細くなってしまった。

 東の空が明るくなる。(五月一日)兵長らは、タコツボを堀掘り、中へはいって日中をすごす。沖縄の初年兵が、後方からニギリめしをはこんできた。それを受けとり、小沢の右斜面に掘ったタコツボにはいった。

 真っさおな大空に太陽があがり、グラマン機の爆音がとどろきはじめる。近くから迫撃砲の連続発射音。急調子で太鼓をたたいているような音だ。頭上に一陣の突風。ザアーッといやな音をひびかせ、後方でボカ・ボカ・・・とサク裂。

〈敵は、ジープやトラックにロケット砲を積み、接近してきて一齊射撃をあびせ、サッと逃げてゆく―と聞いていたが、ほんとうらしい〉

 満山兵長は、はじめて体験する敵弾の洗礼に、おどろいたり、感心したり。木の枝ごしにぼんやり飛んでいる〝トンボ〟急降下するグラマンが見える。友軍陣地をしきりに爆撃し、機銃掃射している。

〈ちくしよう、あの飛行機さえなかったらなあ・・・〉

 空を我がもの顔に飛びまわる敵機が、憎らしかった。

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