119樫木大尉手記(6)作戦命令 前線へ出発の準備 夜を待って行動開始

 伊東大隊長は

「山三四七五部隊の名誉にかけて戦う第一大隊の戦闘に、ご期待ください」

 と力強く答えた。部隊副官・山崎大尉(山形)が、出陣祝いの酒をもって進む。伊東大隊長は、これを湯のみでうけて一気に飲みほした。

 樫木副官と大久保憲一中尉(連隊本部弾薬行李隊長・江部乙出身)は、旭川北部第三部隊から関東軍に転属(昭和十六年七月)以来、ずうっと一緒だった。演習や戦闘になると樫木副官は第一線、大久保中尉は、弾薬を輸送する任務について後方に残り、仲良しのふたりは、別れ別れになるのが、宿命のようになっていた。

 大久保中尉は

「いよいよきたな。どこへ行っても、おまえの好きなタバコと弾薬は補給してやるぞ」という。樫木副官は

「おれは、ちよっとやそっとでは死なないぞ。とにかく、一応はお別れだ。本部もいずれ第一線に出てくるだろう。おたがいにがんばろう」といって別れた。

養正山の大隊本部では、各中隊長や命令受領者が伊東大隊長と樫木副官の帰りを待っていた。

 すぐ隊長会合で作戦計画を練り、樫木副官からつぎの命令を下達した。

 山七五伊作命第八五号、北小地区隊命令。四、二二、十一時養正山。

一、部隊は二十二、二十三日の両日、首里東南側地区に転進し、第一線への進出を準備する。

二、大隊は本日没後、機動し、首里東南側一三九高地周辺に潜伏。二十三日夜以降の吉田部隊第一線への進出を準備せんとす。

三、諸隊は別に示す計画にもとづき、本夜の機動ならびに秘匿(とく)を実施すべし。

四、独射第二中隊は本夕、本属部隊に復帰すべし。

五、高射機関砲小隊は現任務を続行をすべし。

六、予は磐石台陣地において諸隊の出発を見とどけたる後、第一梯団の進路を首里東南一三九高地に至る。

北小地区隊長

 下達法=各隊将校を集め口述筆記せしむ。報告下達先=山三四七五

五、隷下指揮下各隊。

別に示す計画

一、軍隊区分=第一梯団長大山大尉、第二梯団長岸大尉、第三梯団長工藤大尉

二、出発時刻は二一時。

三、集合位置ならびに進路=第一梯段―阿波根東北側地区―阿波根―高良―高入端東端―長堂―国場東端―識名東端―一三九高地)

 第二梯団―座波東南側不正四差路付近―座波―小城―宜寿次―津嘉山―一日橋―真地周辺地区。

 第三梯団―糸満駅付近―糸満駅―志多伯―東風平―友寄―神里―喜屋武―宮平―大名西南地区。

四、到着時刻=二十三日二時までとす。

五、秘匿(とく)完了時刻=四時。

六、各梯団長は、出発ならびに秘匿位置を到着時、予のもとに状況報告すべし。

以上のように機動部署を命令した。

 第一梯団は大山大尉を団長として伊東部隊第一大隊本部(大隊長・伊東孝一少佐=横須賀、大隊副官・樫木直吉中尉=札幌)第二中隊(長・大山昇一大尉=川崎)第一歩兵砲小隊(長・高井和平中尉=新庄)独立機関銃第三中隊(長・山田中尉=出身地不明)

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