162不眠不休 いよいよ全滅か…… 休まず次々攻撃へ

 布施上等兵は、ノモンハン帰りの猛兵で、敵の自動小銃を一丁みやげにして帰隊、二階級特進して伍長になった。なお、この切り込みで戦死した人々は、次のとおりである。

(伊坂重市兵長調査=羽幌町築別炭鉱)斎藤道博中尉(札幌南〇〇)内館留吉伍長(出身地不明・ノモハン帰り)北条上等兵(札幌・補充兵)石田上等兵(出身地不明・補充兵)高橋吉郎上等兵(小樽・補充兵)木村一等兵(出身地不明・補充兵)太田軍曹(札幌)阿部上等兵(出身地不明・ノモンハン帰り)佐々木上等兵(出身地不明・補充兵、二十四歳)金城一等兵(沖縄)山城一等兵(沖縄)キヤシロ一等兵(沖縄)丸山久芳軍曹(秩父別町・ノモンハン帰り)浜中友一軍曹(本道出身・ノモンハン帰り)小紙元博伍長(小樽市〇〇母タキさん)森上等兵(札幌白石・補充兵)山田一等兵(北海道・補充兵)山田軍曹(北海道・ノモンハン帰り)河野上等兵(北海道・補充兵)=あと記憶にうかばず=

 布施伍長の話は、伊坂兵長には、これから自分が直面するはげしい戦闘を物語っているように思われた。兵長は心からなき戦友にめい福を祈った。

〈斎藤中尉も見ておられる。俺も、りっぱに任務を達成して、戦友たちとあの世で顔をあわせよう〉そう決心した。

 香川曹長指揮の救援隊は前田部落に到着。十人ぐらいに分散して、友軍の小さなゴウにはいった。

 伊坂兵長は八人の戦友と、いったん、野砲隊のゴウにはいり、そこに三浦兵長、木村上等兵、渡辺上等兵の三人を残し、対戦車戦闘に出発した。その五人のうち、たちまち、安里一等兵、中野上等兵が戦死。生き残った兵長と中村上等兵、山田一等兵、フチヤクジュンプク一等兵は、香川曹長の命令で、斎藤中尉の戦死体を埋葬した。(曹長は、兵長のとなりのゴウにいた。赤星一等兵が兵長ら三人の埋葬作業を手伝った)

 まえにいた野砲隊のゴウへ戻ってみると、残した三人は戦車砲弾の集中射撃をうけて飛散し、ゴウはあとかたもなくなっていた。

 夜になった。二人ずつ監視所周辺の警戒勤務につく、午前二時(五月十三日)伊坂兵長が勤務を交代して戻ってくると、中沢上等兵が監視所の入り口に倒れている。監視所の中には、沖縄出身の兵隊が、うつぶせになって死んでいた。

「ガス弾をうちこまれたなッ、みんなを外へだせ!」

 兵長が叫んだ。中村上等兵が、急を知らせに走る。伊坂兵長は倒れている二人を抱きかかえると、コンニヤクのようで、死体の堅さがない。

 中村上等兵が駆け戻ってきた。

「曹長殿が、朝までがんばれといってるぞ!」

 命令には従わざるを得ない。夜のあけるのを待った。

 東の空があかるくなりかけたころ、伝令がきた「引きあげろ」との命令だ。

 陣地へもどり、一瞬もしないでまた出撃。兵隊はつぎつぎに出てゆく。戻ってくるのは三分の一くらい。このままなら全滅はまぬがれない。

〈俺もいよいよ戦死だな…〉

 死の予感が全身的に迫ってくる。

〈死ぬときは、思い切りあばれて、敵とさしちがえてやるぞ〉

 伊坂兵長は、戦死を決意し、敵陣へ踏み込んでの白兵戦を脳裏にえがいた。

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