〈よしッ!そっちが、その気なら、こっちにも考えがあるぞ!〉
橘少尉は、積み込み作業にあたる運転手、助手の兵隊たちにパインアップルのかん詰めをたべることを命令した。
「腹いっぱい食え、遠慮するな。俺が責任者だ!」
兵隊たちは、銃剣でかんを切りひらき、手づかみでたべはじめた。
〈今生の思い出に、腹いっぱい、思う存分たべてくれ・・・〉
うまそうにたべつづける部下の姿―見ているうちに少尉のほほを、涙がとめどなく流れおちた。
「小隊長殿、うまいです。いっしよにたべてください」
「俺も食うから、まず、おまえたち、うんと食え、腹いっぱいたべろ」
〈ああ・・・このパインを一車両部隊長はじめ、戦友たちに持っていって、たとえ一口でもいいから食わせたいなあ・・・〉
兵隊たちは、四つも五つもたべつづける。ひとりで八個のかんをたいらげ、まんぞくげに白い歯をみせて笑っている顔もある。
〈よしッ!やるぞ!〉
少尉は決心した。ここを担当している准尉の前へ行った。
「准尉、俺たちが命がけできてみれば、このざまだ・・・」
准尉は不動の姿勢。少尉は一歩大またに近より
「おまえたちは、毎日ここでこんな高級食を食っていたな」
石のようにかたくなる准尉―少尉は大声をはりあげた。
「輜重隊は任務終了後、一車両分、パイかんを受領する。渡すことを准尉に命ずる」
少尉は、輸送を終えてのかえり、パイかんを一車両分持ちかえった。森部隊長への報告は
「無事任務を達成、ただいま帰隊いたしました。軍司令部はわれわれが最後の輸送をしたお礼にと、一車両分のパイかんを分配してくれましたので、受領してまいりました」
部隊長以下全員、何カ月ぶりかで口にするパイかんに大よろこびだ。そのひときれを口にしながら、橘少尉は
〈ああ、あと二、三日のいのち。このうれしそうな、みんなの顔も、これで見おさめか・・・〉
涙とともにゴクリとのみくだした。
この日を最後に、全車両からバッテリーをとりはずして焼きはらった。バッテリーでゴウ内に電気をともす。あかるいゴウ内でみんな、生きかえったように元気になる。
〈いよいよ、あすからは、歩兵と同じように戦闘をしなければならない〉
少尉は自分にいいきかせた。兵隊たちも、銃剣をみがき、銃の手入れをする。
敵の情報がはいってくる。
〈敵は上陸用舟ていで、続々糸満海岸に上陸中〉
〈友軍の戦局は急激に悪化、敵は勢いにじようじ、我軍に接近中〉
中村部隊長以下、車両をもたぬ輜重隊は、第一線部隊としての戦闘命令のおりるのを待っていた。
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