069吉岡兵長の死 衝撃で息絶え 〝貴様の分も俺が・・・〟

 小波津の東方二キロには、中城湾がある。米艦隊は中城湾から小波津戦線にたえまなく艦砲弾を撃ち込んだ。笹島兵長の第一機関銃中隊は、右側面から艦砲弾をあびながら、墓所の前に陣地を構え、攻めてくる米軍に応戦していた。

 機関銃を発射中の笹島兵長の目の前で一瞬、強烈な光りがきらめいた。それきり意識を失った。

 どれくらい時間が経過したか―笹島兵長が正気づいてみると射撃をしていた場所から十メートルほども飛ばされている。頭には、小石が突きささり、機関銃も遠くへ飛ばされていた。強烈なショックをうけたらしい。だが、頭をおさえ、首をなでてみたがなんの異常もない。

(俺は死ななかったんだ・・・)大きく息をすいこみ、からだに力をいれて、生きている喜びをたしかめた。

 あたりは、真っくら。人の気配がする。兵長はヤミをすかして見た。十二、三メートルさきに、フラフラしながら歩いている者がいる。近よって見た。吉岡兵長(芦別)だ。

「吉岡・・・吉岡・・・」

 呼んでも答えない。様子がおかしい。いまの光りと衝撃にやられたらしい。笹島兵長が抱きかかえるのと、吉岡兵長が息たえて、倒れかかるのが同時だった。

「吉岡、しっかりせッ!しっかりせッ!」

 いくら呼んでも、ゆすっても、吉岡兵長はよみがえらなかった。

(バカッ!死にやがって・・・)

 笹島兵長は、死のおそろしさ、かなしさ、さびしさが、一度におしよせてくるようで、じっとしてはいられなかった。

(よし、貴様の分も、俺がやる。吉岡、見ていろ)

 敵をやっつけるぞ―その思いが、強くわきあがった。笹島兵長は、この時以来、敵弾も死も、もう、おそろしいものとは思えなくなり、いままでの自分ではなくなったような気持ちになった。

 四月二十九日午後六時、転進命令が出た。戦友たちは

(ああ、また死なねばならんのか・・・)

 口ではいわなくとも、その気持ちを、ことば以上に明確な表情にうかべ、たがいに顔を見合わせている。死線を何度もくぐりぬけた者同士だけに通ずる会話だ。

 午後十時、七六部隊(山三四七六部隊=歩兵第八十九連隊)が七五部隊(山三四七五部隊=歩兵第三十二連隊)と交代のため到着した。

笹島兵長ら七五部隊は、午前零時、石嶺に近い平良町に向かって前進を開始した。照明弾があかるく、砲弾が近くでサク裂する。部隊の移動は、敵に知られないよう注意していたが、米軍は、めくら撃ちに砲弾を撃ちまくっている。部隊は、四月三十日の朝方、平良町北側の高地を陣地占領し、各隊はそれぞれ夜襲を決行した。

 山三四七五部隊第一大隊第一機関銃中隊の編成(笹島繁勝さんの調査・敬称略)=(2)=

 多原春雄(札幌北四東十四・四月八日照屋)斎藤光雄(浦河町字向別・五月八日棚原)木村喜代治(札幌〇〇五月七日棚原)沢住武雄(江別市字〇〇五月一日一四六高地)本間堅二(三笠市〇〇六月二十七日・座波)平賀俊治(札幌南〇〇四月二十九日小波津)伊藤義也(音江村〇〇五月○日野戦病院)戸松武一郎(札幌白石〇〇五月五日棚原)渡辺直之(三笠市〇〇五月五日一四六高地)高田友治(札幌苗穂〇〇五月七日棚原)中田昇(札幌豊平〇〇五月七日棚原)中野米松(札幌郡篠路村〇〇五月七日棚原)吉田栄治(新十津川町〇〇六月八日照屋)安田券治(江別市〇〇五月一日一四六高地)前田広司(長沼町東〇〇六月二十五日照屋)小早川秀雄(新篠津村〇〇五月○日野戦病院)近藤行雄(東京都板橋区〇〇五月八日棚原)篠田米吉(室蘭市〇〇五月十二日平良町)広部一雄(札幌平岸〇〇五月七日棚原)森尾猛美(砂川市〇〇五月六日棚原)沢出忠雄(三笠市〇〇五月七日棚原)赤塚勇(歌志内市〇〇四月三十日野戦病院)岩崎宅一(当別村〇〇五月二十日一四○高地)今井納(札幌琴似〇〇五月十八日一五○高地)木村俊二(岩見沢市〇〇五月十九日一四〇高地)伊藤光義(門別町〇〇六月九日照屋)猪野毛丘(三石町〇〇五月三日棚原)小野寺英雄(三笠市〇〇五月七日棚原)〇茶志内一○三・五月七日棚原)有元巌(幌加内町〇〇五月二十日・野戦病院)能呂幸花(砂川市〇〇六月○日照屋)中山豊三(長沼町〇〇五月八日棚原)河上肇(広島村〇〇四月二十九日小波津)

沖縄戦・きょうの暦

6月9日

 米軍、国吉まで進出。日本軍雷撃隊、伊江島飛行場を攻撃。島田知事、警察警備隊の解散を命令。

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