096ごう内にかんづめ 次々倒る部落民 米兵、上乗りして掃射

 夜になった。伝令・北畠上等兵は帰ってこない。みんなが心配していた。そのとき、洞穴の入り口付近が急にさわがしくなった。私(志田)は、北畠上等兵に、なにか事故があったのではなかろうか?と不安を感じ、入り口へ歩みよった。

「兵隊さん、兵隊さん、こいつはスパイです」

 一人の沖縄人を四、五人でとりおさえ、洞穴へ連れ込んだ。

「どうしたというんだ?」

 私は、とりおさえている男たちにたずねた。

「私が、畑でイモを掘っていると、こいつが、岩かげで懐中電灯をつけたり、消したりしているんです。きっとアメリカに信号を送っていたんですよ」

 男たちのなかの一人が答えた。大槻兵長がどなりつけた。

「このやろう、スパイだな、どこからきた?」

 つかまえられた男は、もってのほか。―といった顔で

「冗談でない。私はとなり部落銘刈のもので、安謝に妹がいるので会いにきたんだ」

という。

 だが、私は、彼の目つきや態度から、これはクサイ―と直感した。身体検査をはじめた。モールス信号用の懐中電灯、小さな手旗二本、英語にふりがなをつけ、その下に日本語の書いてある辞典らしい本などがでてきた。

〈やっぱり、そうだった〉

「腕をねじりあげろ」

 部落民が、グイグイスパイの腕をねじりあげる。だがスパイであることは自白しない。

両手をうしろへまわしてしばりあげ、部落民四人をつけて沢岻(たく)の大隊本部へ連れてゆかせた。(後刻、大隊本部からスパイについての情報が伝えられた。このスパイは、夕方、米軍偵察機に乗って飛来し、内間部落と銘刈部落のあいだの畑に落下さんでおりて、われわれの陣地の所在地を、米軍に知らせていたものであることがわかった)

 午後九時ころ、突然、洞穴の上でダ・ダ・ダ・ダ・・・と機関銃の音がひびき、絶叫、怒号がきこえた。

〈さては〝馬のり〟攻撃をくったな?〉

 私は、不安がる部落民のなかで〈しまった!〉と思った。部落民の一人が洞穴から外へ飛び出す。そのあとを数人がバラバラ・・・と追った。

「あぶないッいま出ると、みんな殺されてしまうぞッ!」

 私の叫びも、彼らの耳には、もう、はいらなかった。走り出す者が続く。機関銃音の一射撃音。やみのあちこちから絶叫、だんまつまの叫びが、聞こえる。米軍の機関銃は四、五丁あるようだった。十四、五人の兵隊が殺気ばしった、部落民の洞穴脱出をふせぎ四、五十人をとどまらせた。

 総員五、六十人。みんな、どうやら歩けるようだ。勝手に逃げ出さないで、洞穴のうえの敵をやっつけてから、ここを脱出しよう―と相談がまとまる。みんなで、洞穴内の手りゆう弾を集め、各人が持てるだけ持った。

 私たち数人は洞穴の入り口にひそみ、敵の射撃のやむのを待った。三十分くらいで射撃がやむ。私は、首からつっている白い三角きん(巾)をとり、軍服のボタンをはずして左手を入れた。切り込みに目立ってはいけない―との用心からだ。

 私たちは入り口を出ると二手にわかれた。物音をさせないように、はいながら洞穴の上へのぼっていった。腕がだるく、傷口がいたむ。突然、だれかが手りゆう弾を投げた。目前の敵兵のなかで、爆発音がひびく。

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