四月二十八日―火砲は分解して、ごう内にいれ、馬車、弾薬車は、くぼ地にいれて偽装した。この津嘉山には兵器廠、糧まつしょう(秣廠)軍砲兵団本部などが集結している。第一線までは十五キロあるという。大きな地下ごうが、あちこちに掘られ資材が貯蔵されていた。
満山兵長らは、津嘉山を管理する部隊から、にぎり飯の給与をうけ、地下ごう内の、ぎっしり積みあげられた糧まつのあいだに、疲れたからだを横たえた。そのまま、ウトウト・・・とねむってしまった。
近くでサク裂する砲弾の地ひびきで、兵長は目がさめた。ズシーン・・・ズシーンと、からだにひびいてくる。
〈小便がしたい。いま、なん時だろう?〉
外へ出た兵長は、ギラギラ輝く太陽に目をやられた。しばらくは見えなかったが、視線をならして、あたりをながめると、魂をすいこまれるような青空があり、なだらかな緑の山野があった。
〈ここが戦場だとは、思えないなあ・・・〉
目にしみる景観に、満山兵長は、一瞬、戦争を忘れたようだった。
飛行機の爆音―ハッと現実にもどる。グラマン機の群れ。三百メートルほど前方の部落に、土煙りが、もうもうとあがる。航空機の群れのなかから、セムシのように、背中をまるめたやつが四機、部落をめがけて急降下してゆく。
〈あれは、ブオートシコルスキー戦闘機だ。なにをねらっているのだろう?〉
南の方から、軽い冷静な爆音がひびいてくる。〝トンボ〟だ。百メートルくらいの低空でやってきた。兵長は、あわてて、ごうへかくれた。
〈あいつに発見されたら大変だ。すぐ艦隊へ連絡し、集中砲撃をくわせやがる〉
兵長は、糧秣廠の兵隊から、こんな話を聞いた。
スピードもないくせに低空―とあなどったある一個分隊が、トンボをめがけ軽機と小銃の一斉射撃をくわえた。トンボは逃げたが、すぐ三方から猛烈な艦砲の砲撃をあび、その分隊は全滅した―という。
満山兵長は、昼めしを食い、ウトウトしていた。金田一等兵(朝鮮出身)がやってきた。久米分隊長がよんでいるという。分隊長のところへ行った。
「お前と大塚を連れ、これから陣地偵察にゆく。用意して三十分後に集まれ」
三人は準備をととのえて出発した。
「満山、下士官なんかには、なるもんでないぞ」
ならんで歩いていた分隊長が、思いつめたようにいう。兵長は返事につまった。夜目にも白い道路が、北へウネウネとのび、その辺一帯は照明弾で大都会のよう。はげしい銃砲声のひびき。激戦中だ。
〈陣地選定は小隊長の責任だ。部隊本部で命令をうけたのに、自分が行かずに部下を行かせる〉
満山兵長は、分隊長に同情した。付近の民家はほとんど焼け落ち、積みあげたドラムかんが気味わるく燃えていた。
〈小隊長は、学徒出陣の見習い士官、訓練期間も短く、実戦にのぞんで自信を失うのも無理はない。だが、部隊のトラの子といわれる連隊砲をすえつける場所を選定するのに、同行もしないのは、なぜだろう?〉
満山兵長は、久米分隊長の不満、高見沢少尉の怠慢を考えながら歩いていた。
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