122樫木大尉の手記(9)出血強要 切り込み隊を出し 敵の攻撃準備を乱す

六、第三中隊は将校以下三名第一中隊は下士官以下三名の挺身切り込みを明二五日夜派遣しうるごとく準備すべし。

 二十四日十九時つぎの師団命令がでた。(師団司令部は与座にあった)

一、師団正面の敵は、ウシクンダ原、上原、棚原北側高地の線にあって、爾後の攻撃を準備中なるもののごとし。

二、師団は、挺身切り込みにより、敵の攻撃準備を擾乱(じようらん=さわぎみだこすと)せんとす。

三、和田大隊長と伊東大隊長、吉田部隊長は、今後、適時、切り込み班を潜入せしめ、敵の攻撃準備を擾乱すべし、挺身切り込み攻撃目標は、主として人員殺傷ならびに迫撃砲の破壊とす。巡遣区域の境界は、おおむね戦闘地境(その沿岸を含む)による。

四、捜索連隊長ならびに戦車連隊長は、別に示す目標、および有利なる目標にたいし適時、挺身切り込み班を潜入せしめ、敵戦力の破摧(さい)に努むべし。

五、予は与座戦闘指揮所にあり、明二五日夜、津嘉山戦闘指揮所に至る予定。注意として無理な切り込みはいましむ。確実を期せよ。実行をちうちよせざること。

 さらに、四月二十三日付第三十二軍戦闘指揮第十五号としてつぎのとおり連絡がとどいた。

 敵人員に徹底的出血を強要すべし。

「敵に出血を強要するため、従来、ややもすれば、夜間挺身切り込みに過度に依存する傾向なきにしもあらざるも、真に敵に大出血を強要し得るは、むしろ昼間にあり。よろしく敵情不断の監視を厳にし、敵砲爆撃に屈することなく、自動火器を縦横に活用し、全知全能を傾けて敵人員の殺傷に邁(まい)進するを要す。

 某一拠点が敵に攻撃をうけるときは、付近が所在の拠点にある部隊は、敵砲爆撃に逼塞(ひっそく)することなく、斜射、側射、背射をもってする火力急襲により断固、これを撲滅せざるべからず。

 これがため各拠点間に、たくみに偽装せる一部の自動火器を機敏に行動せしむるか、あるいは待機せしめ、敵を急襲するを有利とす。

 大隊本部の位置は、安室部落(地図上では桃原ともなっている)の西方二百メートルの高台である。

 第二中隊(大山隊)の守備する小波津、津花波、小橋川部落がながめられる。これらの部落は、与那原湾(中城湾)にそってぼん地となっており、与那原港につうずる道路が集中しているが、あたりは見えない。とくに正面の上原高地(一五七メートル)と東南方にある運玉森(一六一メートル)の山すそになっていた。

 依然、艦砲と迫撃砲がすさまじい。昼間は、一時間おきに敵編隊機がとぶ。各部隊はくすぶりつづけ、見とおしがきかない。

 二十五日、つぎの九項の大隊命令を発した。

一、敵は依然、攻撃を準備中のもののごとし。師団は切り込み隊をもって、敵の攻撃準備の妨害を企図しあり。

二、部隊はさらに切り込み隊を強化し、敵の攻撃準備を妨害するとともに前進部隊を推進強化し、主陣地を欺騙(ぎへん・だまし、かたる)せんとす。

三、前進部隊はさらに一○一・三高地付近を占領、主陣地帯を欺騙すべし。新たに第二中隊より半小隊を属す。

四、第二中隊は歩兵半小隊を新たに前進部隊に配属すべし。

戦記係から

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