笑い声は、ドウクツ内にこだまし、ゾーッと冷水をかけられたような悪感。からだがすくんで動けない。
〈ああ、ここにもひとり、処置しなかった負傷者がいたのか…とり残されてかわいそうに…〉
声をかけた。返事をしない。ふたたび、「おいッ!」と呼んだが、ヒッヒッ・・・と笑うだけだ。
〈気がくるっているな?〉
そのままにして藤沢軍曹は奥へ進んだ。大きな岩につきあたる。横にそれた。とたん、足が宙にうき、からだが、地の底へすいこまれた。落ちたところで、背中と腰を強くうった。痛たくて立ちあがれない。疲労が一度に出てきて、ぐったりへたばってしまった。
〈この穴のなかで、おれもいよいよ最期か・・・〉
そう思うと、急におそろしくなってきた。手と足に全力をこめ、穴をよじのぼりはじめた。疲れたとか痛いなどと、いってはおれない。
やっと穴からはいあがった。さぐり歩いておぼえのある通路に出た。その通路をつたわり、まえにいた居室へもどった。
〈なつかしいなあ―〉
軍曹は安心と疲れで、そのままぐっすり寝込んでしまった。
寒気がして目がさめた。頭が痛い。全身がずぶぬれで寝込んでいた。
〈火をたかねばならぬ。だが、マッチは使えない。・・・そうだ、手りゅう弾を発火させ、その火をガソリンに移してやろう〉
布切れにガソリンをひたし、手りゅう弾を発火した。火が噴気口からさかんにふき出てる。そこへ、布切れをあてた。火がつかない。四秒間で爆発だ。あせる。火はつかない…投げた。広い場所をめがけて―手りゅう弾は、地面に落ちるまえにサク裂した。もう一瞬おくれていたら―冷や汗をかく。
〈だが、このままでは、めしもたけないし、どうにもならん。なにか別な方法で火をおこそう〉
板切れをひろいあげ、軍刀で割ってキリをつくり、板の中央にあてて両手でもむ。
〈原始人は、こうやって火を起こしたというんだが…〉
しきりにキリをもんだが、火がつかない。いくらやってもダメだ。
〈失敗だ…バカなことをした〉
キリを投げ捨て、毛布をかぶって寝ころがる。疲れが出てそのまま寝込んでしまった。
「ドーン」
「ドーン」
サク裂音に目をさました。ぐっすり眠ったせいか、気分はそう快。
〈敵の手りゅう弾だ〉
同時に、からだをはうノミの多いのにも気づいた。
〈ひどいノミだ。ちきしょう・・・〉
あちこち、軍服のうえから、しきりに、からだをこする。
その時である。
〈ピストルで、ガソリンのしみた布切れを撃てば、火がえられるかもしれぬ―〉
そう思った。
銃口に布切れをあてて、引きがねをひいた。思ったより大きな音―あわてて、あたりへ耳をすます。布切れには、火がつかない。がっかりする。気合がぬけて、すわりこんでしまった。が、その時、ある考えがひらめいた。
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