2024-05

201-267

247煙り 米軍のいぶり出し 地面にふして防ぐ

米兵の声がきこえた。〝ガチヤ〟突然、金属的な音。ビックリして、満山上等兵は、横を見た。岩かげから小銃でねらっている。 「山ッ!」  軍のあいことばで怒鳴った。姿をあらわしたのは、友軍の兵ふたり。全身の緊張がとける。 「いれてくれ。かくれると...
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246与座岳へ 焼かれたゴウ脱出 連隊本部の収容所へ

死因がわからない。〝ガスだッ!〟と、だれかが叫んだ声が耳にのこっている。 〈敵は防毒面でもふせげない毒を使用したのだろうか?〉  古口准尉は、あぐらをかき、軍刀を肩にもたせかけて、じっと天井をにらんでいた。異様なことに、彼はあぐらのなかに軍...
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245父母の顔 ゴウ内に火炎放射 家族を思い?・・・失神

〝ガガーン〟―ゴウが震動する。戦闘が再開された。猛烈な砲撃、近江隊の正面に敵が迫ってきた。清野分隊の連隊砲(中隊に一門残っていた)に射撃命令がかかる。目標は敵戦車―乗員は戦車からおりて、池で水浴しているという。  頂上の展望口に観測班が陣ど...
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244降伏勧告 砲声やんだ数時間 いらだたしい兵たち

〈軍歌にもあるとおりだ。寸余の剣をもって、敵に攻撃する特攻精神。生きて虜囚(りよしゆう・ほりょ)のはずかしめをうけない兵の心得・・・〉  古口准尉の要求は操典どおりのことだった。 〈無腰でヒヨロヒヨロ歩いている兵隊を見れば、気合いもかけたく...
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243かたわこじき 服装はみだれ放題 片手にツエ、やぶれた服

満山上等兵ら負傷兵は目をさました。東風平を出発したとき、十二、三人だった一行は、七、八人に減っていた。光岡上等兵の偵察で、中隊は与座の戦闘指令所にいるが、満員だから、連絡するまで、現在地にいるよう―指示をうけた。  満山上等兵らはゴウをさが...
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242セミ 日をいっぱいにうけ 静まった戦場で泣く

戦いやぶれて南部へのがれる疲れはてた避難民と負傷兵の行進―そのうえに、いつやむともしれぬ雨が、シトシトと降りしきっている。時おり無傷の兵隊の一群が、負傷兵を追い越し子供や老人づれの女たちを押しのけて進んでゆく。照明弾が、泥田の道をてらす。疲...
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241敗走 〝連れて行ってくれ〟 泣き叫ぶ、歩けぬ負傷兵

東風平の地下野戦病院へ、日を追って戦況悪化の情報がはいり、それを裏書きする負傷兵の搬入がつづいた。重傷者以外は、もう手当てができない。足をやられて動けない者は、大小便をたれ流しにしていた。  食事も一日一回、ミカン大の握りめしが、夜明け前に...
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240トマト ちぎるのも惜しげに・・・ しばらく見とれる

山三四七六部隊近江隊(連隊砲中隊)の満山凱丈上等兵(上士幌町〇〇平電源開発十勝電力所勤務)は、五月一日、古波津付近の小沢陣地で左眼失明。右眼も弱視となり、野戦病院ゴウに収容された。そのゴウへ五月四日夜、総攻撃の負傷者大勢が運びこまれ、上等兵...
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239津嘉山へ 迫りくる優勢な敵 痛む足ひきずり移動

〈山上、お前は、ほんとうに死んだのか?あんなに元気者で勇敢なお前が・・・〉  工藤中隊は、死守するはずの石峰陣地から首里へ向かって進んでいた。 〈山上、ついきのうまで、何度となく生死をともにしてきたお前を、ここに残して去るのは悲しい。どうか...
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238首里へ 共に誓った戦友 手りゅう弾に散る

「中平ッ!」  佐藤上等兵は、飛び込んできた部下の安否が心配だった。 「山上です」  山上一等兵の声。上等兵は勇気がわいた。彼と行動する決心をした。 「動くなッ!危ないぞ。俺が動くとき、一緒に動くんだぞッ!」  返事があった。やがて照明弾が...