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110全身に緊張感 やっと前線に到着 日中は動けず休息

前線まで残すところ四キロの地点にさしかかった。負傷兵が続々と後退してくる。よごれた包帯に傷をつつんだ彼らは、二、三人ずつ組をつくり、肩をかしたり、手をひいたりしながら、ヨロヨロ歩いてくる。足をやられた一人は、青竹にすがり必死になって歩いてい...
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109三本足の馬 弾片で足吹き飛ぶ 馬車はやむなく捨てる

二十九日午後三時、出発準備発令。軍隊手帳、典範令類(軍人の教科書様の書物)などは洞穴内に穴を掘ってうめ、背のう、予備の被服、文房具類、石ケンなどはひとまとめにしてごうの管理者にあずけた。  満山兵長は母の手作りの千人針を腹にまき、日の丸の寄...
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108秘密兵器 一発で敵戦車炎上 瞬時、返礼の集中砲火

久米分隊長ら三人は、小沢をのぼり山頂に出た。直径三十センチくらいの松が五、六本、砲弾で幹のなかほどからへし折られ、黒々と立っている。山のふもとには、夜目にも白々と道路がつづき、そのさきに、かすかに部落らしいものが見える。  分隊長は、あれが...
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107陣地偵察 鼻をつく悪臭 部落民の死体が散乱

「シュッ!」みじかく空気をさく音。とたんに左十メートルの地点で砲弾サク裂。気がついてみると、満山兵長は、土砂をかぶって、道ばたのみぞに伏せていた。あたりに部落民の死体が散乱、その悪臭と、ものの焼けこげるにおいで、胸がわるくなる。  やがて三...
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106久米分隊長 焼けつくす民家 押しつけられて陣地偵察

四月二十八日―火砲は分解して、ごう内にいれ、馬車、弾薬車は、くぼ地にいれて偽装した。この津嘉山には兵器廠、糧まつしょう(秣廠)軍砲兵団本部などが集結している。第一線までは十五キロあるという。大きな地下ごうが、あちこちに掘られ資材が貯蔵されて...
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105魔の三差路 砲車をひいて疾走 弾着の間げきぬって

時々、砲弾が、スコールのようにサク裂して通りすぎる。連隊砲の前架にとりつけた大塚古年兵殿苦心の力作、補助車輪は、なかなかぐあいがいい。火砲を引っぱる満山兵長ら、隊員は、おかげで大助かりだ。  東風平(こちんだ)のまちに近づく。付近の丘の洞穴...
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104出撃の宴 二人に一合の酒 死出の行軍の前に

満山凱丈兵長(上士幌町〇〇)=山三四七六部隊(長・金山均大佐)第一大隊(長・丸地軍次大尉)連隊砲中隊(長・近江栄一中尉・函館出身=二十年六月十五日、与座岳までは健在、以後戦死と推定される)第一小隊(長・高見沢少尉・東京出身)第一分隊(長・久...
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103分隊長の戦死 胸に迫撃砲弾 妻子の写真を抱いて

渡辺武男上等兵(野付郡別海村〇〇)戦死―それを阿部分隊長に伝えようと、栗山兵長は地面をはうようにして進んだ。胸から上だけの人間がいる。ハッとした。よく見ると動いている。大山上等兵だ。 「だいじようぶかッ?」  砲弾でタコツボがくずれ、胸まで...
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102ロケット砲  異様な砲身の束 地面を埋める砲弾幕

四月三十一日午後三時半ころ。陣地配備についた栗山兵長らの十二人の頭上に、ギラギラと太陽が輝いていた。迫撃砲弾がしきりに落下する。空中からの偵察で丘の上のこの陣地は目標にされているようだ。  栗山兵長が阿部正雄伍長(紋別市渚滑町出身)の双眼鏡...
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101私物を埋める あすは最後の戦闘 恐怖かくし、ただ前進

地獄絵のなかを進む道産子部隊―たえまなく砲弾が飛来し、ときどき、前進中の隊列のなかでサク裂する。そのたびに、部隊の先頭と後方から 「だいじようぶかッ?」 「異状ないか?」  と安否を問う叫びがあがる。 「異状なしッ」  その返答に、みんな、...