201-267 256雨宮師団長 ガソリンでむし焼き 静かに自決の時を待つ ドウクツの入り口へ流れこんだ火炎放射の火が、逆流して外へふき出しているのが見える。加藤伍長は胸が痛んだ。 〈西沢(勇雄大佐・山形出身)連隊長殿はじめ本部要員たちは、どんなに苦しいだろう・・・〉 戦車は、思う存分焼きつくし、やがて、去ってい... 2024.05.31 201-267
201-267 255火の噴流 ものすごい火炎放射 本部の洞クツ目がけ 強烈な爆発音―ドウクツがゆらぐ。爆風で加藤伍長は吹き飛ばされ、壁に激突した。 〈敵の爆雷攻撃だ!〉 二発目がサク裂。入り口付近にいた者のからだが、こなごなになって吹き飛ぶ。ドウクツ内の丸太ぐみの二段式寝台がくずれ落ち、伍長は下敷きになった... 2024.05.31 201-267
201-267 254砲のない砲兵 陣地は重傷者だけ 敵に砲もこわされ 山三四八○部隊・連隊段列(長・新増大尉)の加藤勇伍長(札幌北○○)は、約四十台の自動車を持つ弾薬輸送中隊の一員として活躍していたが、五月末、各砲兵陣地は、全滅状態になり、自動車も輸送に出たまま帰えらなくなったので、戦友たちとともに歩兵部隊に... 2024.05.31 201-267
201-267 253零距離射撃 米軍の戦車隊接近 最後の抵抗試みる砲兵 二十年六月二十二日午後三時半ころ、島尻郡真壁部落北方三百メートルの地点で、山三四八○部隊岩下隊岡安分隊(固有名称・野砲兵第四十二連隊)の十五センチリユウ弾砲が一門、砲口を北にむけ、南下する米軍に最後の抵抗をつづけていた。 この岡安健三郎伍... 2024.05.31 201-267
201-267 252いつの日か 生き残りオレだけ みんなの霊におわかれ 九月中旬をすぎると、常夏の国沖縄も、そこはかとなく秋の気配がしのびよってくる。台風がやってきた。米軍の天幕群が吹き飛ばされた。 〈いい気味だ!もっと吹け!〉 満山上等兵は心で叫びながら見ていた。 十月一日。ドウクツに侵入した米兵を撃つ。... 2024.05.31 201-267
201-267 251ぼたもち 腹いっぱい食べる 玄米とそら豆のあんで 日記は七月二十日。骸骨(がいこつ)がシヤツをきたような横井兵長が 「苦しい。死なせてくれ。たのむ!」 といいだした。あと二日ともちそうもない。だれもとめなかった。兵長は、手りゆう弾をポケットにいれ、最後の気力をふりしぼってドウクツを出てい... 2024.05.31 201-267
201-267 250探検 自然の大ドウクツ 無数にある鍾乳石 地の底へ埋められるような岩石、土砂のくずれる音がやんだ。 〈生き埋めをまぬがれたのか・・・〉 しばらくは、動く気力もなく、真っ暗やみのなかに、ふせたままだった。二、三時間後、カンテラを捜し火をつけた。頭上の大岩が、生き埋めをふせいでいた。... 2024.05.31 201-267
201-267 249岩石の下 くずれ落ちる岩 押しつぶされ、死を覚悟 〈なぜ、残っているのだろう?〉 満山上等兵は不審感をもったが、ききただす勇気もなく、ひきかえした。 翌朝、見習士官に薬をもらっておこうと思い、行ってみたが彼はそこにいなかった。 外は快晴らしい。朝の光りがゴウへさしこんでいる。上等兵は... 2024.05.31 201-267
201-267 248故郷との会話 妻子に帰り知らす うわごとで絶命寸前に その兵隊は、血と泥によごれ、ゴウのすみに横たわっていた。世話する者もない。 〈俺同様、他部隊の者らしい・・・〉 向かい側の満山上等兵は、彼が歩いているのを見たことがなかった。大小便をたれ流して死んだように寝ている。 〈死んでいないまでも、... 2024.05.31 201-267
201-267 247煙り 米軍のいぶり出し 地面にふして防ぐ 米兵の声がきこえた。〝ガチヤ〟突然、金属的な音。ビックリして、満山上等兵は、横を見た。岩かげから小銃でねらっている。 「山ッ!」 軍のあいことばで怒鳴った。姿をあらわしたのは、友軍の兵ふたり。全身の緊張がとける。 「いれてくれ。かくれると... 2024.05.31 201-267